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レポート

エンクロス語りの部屋

2019/9/25 開催

9月が終わりに近づき、秋の色がいっそう濃くなってまいりました。爽やかな秋晴れに包まれたその日、エンクロス2階中央大ラウンジにて「エンクロス語りの部屋」が開催されました。

延岡の民話を継承する



今回、「エンクロス語りの部屋」を開催してくださったのは『延岡語り部 萌ぎの会』のみなさん。平成16年2月、延岡に民話を語り継ぐべく有志を呼びかけて設立され、長きに渡って語りの好きな仲間との輪を大切に市民の方々との交流を深めてこられました。 
月に一回の定例語りだけではなく、県内各地の施設や学校などへ出前語りに回るなど、積極的に民話を継承するための活動を取り組まれています。
また、昔話、伝説、歴史、戦争体験など、語り聞かせの内容はさまざまで、語りの合間にはわらべ唄や紙芝居といった子どもの遊びを用いてご披露してくださるため、大人から子どもまで楽しめる見どころがたくさんです。

とはいえ、“民話”とお聞きしてもなかなかイメージがつかない方はいらっしゃるのではないのでしょうか。
民話とは長い間、民衆に語り継がれてきた物語を指します。これらには明確な作者というものは存在せず、長い時間をかけて、実に多くの人たちの口から口へと昔ながらの言葉で語り継がれてきました。
しかし今日では、テレビやゲームなどの普及により、私たちを取り巻く日常から消えつつあります。
そのため、民話に触れる機会はめっきりと少なくなり、中には“一度も民話に触れずに育ってきた”という若い世代の方もいらっしゃるかと思います。そんな方にこそ、民話の魅力、そして「エンクロス語りの部屋」の活動について知っていただきたいです。
では、いったいどんな感じで行われているのか……さっそく覗いてみましょう。

思わず、笑いがこぼれる


室内を語りの部屋にしつらえ、二階中央大ラウンジはいつもと違う雰囲気に包まれました。早くに足を運んでくださった方たちからは、開幕されるのを今か今かと心待ちにしている様子が見受けられました。そして待ちに待った午後14時。『延岡語り部 萌ぎの会』会員・山内さんの進行のもと、「エンクロス語りの部屋」がスタートです。
演目の内容は毎月ごとに変わるそうですが、本日はこちら。

     (演目)                   (語る人)
1.寺山の白い白いキツネ(延岡)           上村 登美子
2.芋ざしの作法(高千穂)               甲斐 公博
3.よだきごろの夢(ある所)              山内 文代
4.権の古木は知っている(延岡)            久峩 良修
5.愛宕山と日向御前(延岡)             水津 寿和子

作務衣や甚平姿に身を包んだ語り手が登壇すると、室内の空気は一変します。しんと静まり返ったのを合図かのように、語り手によって言葉が紡がれていきます。
よどみなく、はつらつと方言を交えながら披露するその姿は、まるで今、目の前で起きているかのような錯覚に囚われ、その臨場感には思わず息を呑むほどです。
それを証拠に、一元一句を聞き逃さないと言わんばかりに、観客たちは食い入るように聞き入っていました。時には、堪え切れないあまりに笑い声が漏れ出てしまう場面も。
一人、約五分から十分ほどの語りの時間はあっという間に過ぎていきます。最後に、「と申すかっちん」と語りが締められるたびに室内は笑い声や拍手に包まれました。

今回、すべてのお話を聞かせていただいて感じたことは、民話は通じて語り手と聞き手との間に一体感を生み、互いの心を通い合わせるだけでなく、現代で忘れ去られつつある、人が人として生きていくうえでの大切な心を感じ取ることができること。それが民話の素晴らしい魅力ではないかと強く感じました。


民話とは他に、演目の中盤になると「ももたろう」、「かたつむり」などといった童謡が披露されました。
語り手に倣って、観客も身振り手振りを交えながら一緒に歌います。語り手も利き手もしきりに笑顔で、まるで童心に戻ったように心から楽しまれている姿がとても印象的でした。


自分たちの生き方を振り返る

最後に急遽お越し下さった、『延岡の語り部 萌ぎの会』会員・末田勝則さんより、「竜巻」について語っていただきました。
先日、延岡を襲った竜巻による被害は皆さんの記憶にも新しいかと思います。
語りを拝聴して感じたことは民話に触れることで、私たちは故郷の歴史や文化を知り、先人の知恵や教え、そして生き方を学ぶことができるのだと思いました。
それによって、今ある自分たちの暮らしや生き方を振り返り、さらによりよくしていくにはどうしたらいいのか、そのことを考えるきっかけが生まれるのだと感じました。


民話を次世代につなぎたい

民話は目で読むものではなく、実際に語り手を前にして聴くものだと思います。本や録音にまとめられてあるものではなく、語り手の口から伝承されるからこそ、民話の魅力は最大限に発揮されるのです。
語り手の減少により、延岡で民話に触れる機会が減っている今、『延岡語り部 萌ぎの会』の水津寿和子会長は、「エンクロスでの定例語りを通して市民の方に民話の魅力を伝えていきたい、そしてゆくゆくは子どもたちに継承していきたい」と話されていました。

物心つく前から民話に触れることで、子どもたちの想像力が育まれ、感受性も豊かになりそうですよね。また、方言の温かさに触れ、ぬくもりを分かちあうことで、故郷の素晴らしさに気づくきっかけにもなるのではないでしょうか。
今後、「エンクロス語りの部屋」は、毎月開催していく予定です。老若男女問わず、幅広い世代の方に楽しんでいただける内容になっています。
ぜひ一度、民話の素晴らしさを体感してみませんか?自由参加ですので、ふらっと来館したついでに立ち寄っていただいても構いません。民話を聞くのは初めてだという方も、もちろん大歓迎です。
皆さんのご参加をお待ちしております。